季節の話題(その7)

 

● キノコのはなし ●

 

  
  秋はキノコのシーズンですね。
  この季節を楽しみにしていた人も多いで
 しょう。しかし、中には「キノコは気持ちが
 悪くて・・・」という人もいるようです。
  おそらく、その色合い、感触、形、にお
 い、毒性、生えている場所などを総合して
 の漠然とした理由からでしょう。
  よく、「人は見かけによらぬもの」といい
 ます。キノコも、つき合ってみるとなかなか
 奥深くて、すばらしい生き物だということが
 わかります。秋はキノコと少し仲良くなって
 みませんか?

 
←2001年の初収穫です。(^_^)v
   シロヌメリイグチ、ナラタケ、ツエタケです。

 

 

キノコは植物?
 
   少し前までは、地球上の生物の世界を植物界と動物界に二分する考え方が
 一般的で、菌類は寄生生活をしている下等な植物の一群であるといわれてきま
 した。しかし、最近では少なくとも生物の世界を動物界、植物界、菌界の3界に
 分ける考え方が、多くの人から支持されるようになってきました。

   菌界を大きく分けると、細胞内に核が見られない原核菌類と核が見られる真
 核菌類になります。前者の代表的なものに細菌類(バクテリア)が含まれます。
 キノコというのは、後者に含まれる担子菌類や子のう菌類が胞子を生産するた
 めにつくった、肉眼で見える大きさの器官(子実体という)なのです。

   キノコの本体は何かといえば、菌糸です。菌糸というのは細胞が一列につな
 がり、糸状、網状、膜状、ひも状になったもので、これが3次元的な構造となり、土
 壌や腐朽材などにもぐりこんでいます。

   1年間のほとんどの期間を菌糸の状態で過ごし、秋になると胞子をつくるため
 に特別な器官をつくる、それがキノコだというわけです。

植物と動物と菌類、その共存とは?

   葉緑素をもつ植物は光合成によって、無機物から有機物をつくることができま
 す。光合成というのは太陽の光をエネルギーとして、二酸化炭素と水から炭水化
 物をつくり、それをもとにして生活しています。しかし、葉緑素をもたない動物と菌
 類は、植物がつくった有機物を養分にして生活します。すなわち人間を含めて、
 動物と菌類は植物と共存しなければ生きていけません。

   空気中の二酸化炭素の量は約0.03%です。この量で地球上の植物が光合
 成をし続けるとわずか100年あまりでゼロになってしまいます。しかし、5億年前
 からこの量はあまり変動していません。それは動物と菌類が、有機物を食べたり
 腐らせたりして分解し、光合成の原料になる、もとの無機物に還元しているから
 なのです。つまり、植物もまた、動物や菌類と共存しなければ生きていけないこと
 を意味しているわけです。

   菌類は、植物がつくった有機物を分解する多種多様な酵素をもっています。だ
 から有機物の分解は菌類だけでこと足りますが、実際には光合成のスピードに、
 菌類の分解のスピードがついていけません。そこに動物の役割があります。動物
 が分泌する消化酵素は限られていて、菌類のようにすべてを分解するというわけ
 にはいきません。食物として摂取した有機物のうち、消化できないものは糞として
 排泄します。これによって菌類の分解作用が著しく促進され、菌類だけでは間に
 合わなかったスピードに追いつくことになります。

自然界におけるキノコの役割
  
   菌類は自分では有機物を合成できないので、植物がつくった有機物を栄養とし
 て、それを分解し、吸収し、自分の体をつくり、生きるためのエネルギーをつくりま
 す。菌類が何を栄養源とするのかによって生活の仕方が異なり、大きく分けると
 菌根共生菌と木材腐朽菌の2つになります。

 1 菌根共生菌 
     
   木の根にキノコの菌糸がついた根を菌根といい、文字通り菌と根が合体した
  ものという意味です。根についた菌糸は木から炭水化物などの栄養をもらい、
  お返しに、土の中から吸い上げた水やリンなどの養分を木に与えています。 

   菌糸はとても細いので木の根が入り込めないようなところにも入れ、土中に
  ある少ない水分をとったり、少量の物質を取り入れたりして、根の細胞に与え
  ます。こういうはたらきのおかげで、木は水や栄養の少ないところでも生きるこ
  とができます。また、細い根の表面は菌糸にびっしりおおわれることにより、冬
  でも根が凍ることがありません。しかも、仲の良い菌根をつくることにより、病気
  を起こさせるような菌は入れなくなります。

   この例をあげると、ハナイグチ(落葉キノコ)はカラマツ(落葉)と、マツタケは
  トドマツやアカマツと、そして猛毒のベニテングタケはシラカバとそれぞれ菌根
  をつくり、共生関係にあります。

 2 木材腐朽菌 

   木材は地上に存在する有機物の中でも、最大の量を占めるだけでなく、最も
  分解されにくい有機物です。木材の主要な構成物質はセルローズとリグニンで
  す。これらの物質を分解できるのは木材腐朽菌とよばれるキノコたちだけなの
  です。もし、地球上にこれらのキノコが存在しなければ、陸地は木材や落ち葉
  で埋め尽くされるばかりでなく、結局は光合成の原料である空気中の二酸化炭
  素はなくなり、全ての生物は生きられなくなります。

    木材の腐り方には2通りあります。主に褐色のリグニンが分解されると材は
  白く腐り(白色腐朽)、セルローズが分解されると、リグニンが残るために褐色
  に腐ります(褐色腐朽)。一般に広葉樹では白色腐朽が多く見られ、これは動
  物や微生物によってさらに分解されます。これに対し針葉樹で多く見られる褐色
  腐朽したものはブロック状になって土の中に長い間残ります。これは水もちがよ
  く、微生物も少ないので、次代の樹木の苗床として大きな役割を果たします。
  
    木材腐朽菌には、針葉樹の生立木につくサルノコシカケの仲間、広葉樹の枝
  などの樹皮の多い部分につくシイタケ、切り株から出るマイタケ、いろいろな木
  につくエノキタケやヒラタケなどの種類があります。 

キノコは人類を救う??


  人類は、約300万年前のヒト化以来、ほとんどの時代を狩猟、採集生活で過ご
 してきて、牧畜、農業の生活に入ってもまだ1万年にすぎません。ヒト化の過程で
 分かれたチンパンジーも、まれに肉食しますが、そのあと必ず繊維の多い葉や茎
 をむさぼり食うそうです。ヒトが食物繊維を含まない精製食品を摂るようになって
 からわずか200年。したがって長い進化の歴史から見れば、ヒトの消化器官の構
 造や機能は、まだヒト化直後とあまり変わっておらず、未精製の食物を処理する
 のに適した状態が続いているはずです。こういうことから、繊維の欠乏こそ成人病
 の第一原因と考えてよいでしょう。

  食物繊維のはたらきは、腸壁に粘液分泌細胞の発達を促します。これによって
 不消化物の腸内異動が容易になり、便秘が防げます。便が腸内に長く滞っていれ
 ば、がんの原因になる物質と大腸粘膜との接触時間が長くなるわけです。それだ
 けがんの危険は高まります。また、腸壁に粘膜が多いと糖の吸収がゆっくりとなる
 ので、肥満や糖尿病が防止できます。 

  また、コレステロールからつくられる胆汁酸は脂肪の消化を助けるはたらきをし
 ますが、食物繊維は胆汁酸と結合してこれを排出してしまいます。すると、それを
 補うために、コレステロールがどんどん胆汁酸へと変わり、血中コレステロール値
 が下がり、ひいては動脈硬化や心臓病が抑えられるのです。
  キノコにはビタミンCがほとんど含まれていませんが、食物繊維はもちろんのこ
 と、ナトリウムの害を防ぐカリウム、日光に当たるとビタミンDに変わるエルゴステ
 ロールを多く含んでいます。ほかにも亜鉛、銅、ビタミンB1、B2などを多く含む栄
 養価の高い食品です。

縦に裂けるキノコは食べられる??


   キノコの名前を知るには、図鑑を見るのが手っ取り早いわけですが、1冊だけ
 見てもよくわかりません。キノコは生える場所や時期によって、その姿が微妙に変
 化しますので、最低3冊ほどの図鑑を用意し、見比べながら名前を調べるとよい
 でしょう。

   今のところ、キノコの食べられるか毒かの一般的な見分け方、つまり「こういう
 キノコは食べられる」または「こういうキノコは毒である」という一般的な特徴は発見
 されていないので、食べられるキノコと、毒キノコとをはっきりと知るよりほかにあり
 ません。毒の成分もいろいろです。
   次のような、一般的に昔から言い伝えられている危険な迷信は捨てましょう。

 (迷信1) 「キノコの柄が縦に裂けるものは食べられる」 
      ・・・・毒キノコの大部分は縦に裂けるし、食用キノコでも柄が裂けないもの
        が結構多いんです。 
  
 (迷信2) 「色のきれいなキノコは毒である」
      ・・・・毒々しいきれいな色のベニテングタケ(猛毒)があるが、ほとんどの毒
        キノコは、色も形も毒々しくなく、いかにも食べられそうです。タマゴタケ
        はおいしい食用キノコですが、色がきれいでいかにも毒々しいです。

 (迷信3) 「塩漬けにすればどんな毒キノコでも食べられる」
      ・・・・地方によって猛毒のツキヨタケやテングタケを塩漬けにして食べている
        という話もあるそうですが、これは非常に危険なことで、塩漬けにして毒
        が消えるとはいえないので注意しましょう。

 (迷信4) 「虫の食べあとがあると食べられる」
        「猫や犬に食べさせて大丈夫であれば食べられる」
      ・・・・猫や犬はもちろん、虫が食べるから人も食べられるなどど考えるのは、
        私たちは犬、猫、虫なみの人間だというようなものですよね。

 (迷信5) 「毒キノコもナスと一緒に煮れば中毒にならない」
      ・・・・ナスにはそんな解毒作用があるわけがありません。これは全く科学的
        な根拠のない迷信です。

     
 
美味しいタマゴタケです。   猛毒のベニテングタケです。