季節の話題(その4)

 

● カタクリの花は咲くのに何年かかるか ●

小樽では、雪が消えてしばらくすると、

シラカバやミズナラなどの落葉樹林の下に、赤紫色の花が一斉に開き始めます。

春の使者、カタクリです。

雪解けからわずか一ヶ月足らずで花を咲かせる裏には

大変な苦労があるのです。

花を咲かせるにはエネルギーが必要!
  
   植物が花を咲かせるのは、子孫を残すためです。花が枯れるとやがて果実が
 できて、その中には種子が形成されます。そういう一連の営みにはかなりのエネ
 ルギーが必要とされます。
  
   植物が利用できるエネルギーの形は炭水化物です。これは、光合成というはた
 らきによってつくられ、植物の体内に蓄えられます。光合成が活発であればある
 ほど、炭水化物はたくさんつくられます。

   光合成というのは、光の強さが強ければ強いほど、また気温は5度や10度より
 も20度や25度のほうが、より活発に行われます。また、どれだけ長い時間、どれ
 だけ広い面積(葉の大きさ)に光を受け取るかということも重要な要素です。
 
カタクリが春にしか姿を見せないのはなぜ?
  
   カタクリは雪解け後の間もない4月中旬に葉を地上に出します。花が咲くのは
 4月末から5月の初めにかけてです。カタクリが見つかる場所は、ほとんどが北に
 面した斜面であることに気がつきます。冬の間、北向き斜面は日があまり射し込
 まず暗くなっていますが、春が近づいて太陽が高くなるにつれて明るくなってきます。
 しかし、5月の下旬には急に暗くなります。落葉樹が新しい葉を広げ、カタクリたち
 の上部をおおって光を遮るからです。
 
   カタクリは、花をつけた後、実を結び種子をつくりますが、葉を広げているのは5
 月下旬までの明るいうちだけです。木々の葉で林内が暗くなるころには、カタクリの
 葉は溶けるように消えてしまいます。

   林の中が明るいわずか2ヶ月の間だけを利用して、あわただしく地上での生活を
 終えてしまうのです。あとは、地下に養分を蓄えた部分だけを残し、翌年の春まで
 じっと待っているのです。
若いカタクリと一人前のカタクリのちがいは?
 
   わずか2ヶ月の、それも弱い光と低い温度のもとでは、それほど十分な光合成は
 できません。1年の大半を土の中で過ごすカタクリは、花をつけるまでに、少なくても
 8年の歳月を必要とするといわれています。十分な陽の当たる場所に葉を思いっき
 り広げ、夏の強烈な日差しを毎日毎日浴びる植物などとは、生活のしかたがまるで
 違うわけです。

   北向きの斜面を選んで根を下ろす理由は、夏場の地面の温度があまり高くなら
 ないこと、乾きにくいこと、他の植物が少ないことなどです。

   花をつけているカタクリを見ると、どれも葉が2枚であることがわかります。しかし、
 花をつけていないカタクリは葉が1枚しかありません。種子から発芽したばかりの
 カタクリ1年生の葉はとても小さく、もちろん1枚です。それが1年、また1年と年数を
 経るごとに、少しずつ大きくなっていきます。花を咲かせるための体力を少しずつ
 つけていきます。そして8年後、前の年までは1枚だった葉を2枚にして、いよいよ
 花をつけることになります。

   このカタクリを山菜として食べることがあります。食べ応えのあるのは、8年以上
 をかけてやっと花をつけるようになったものです。数少ない貴重な植物ですから、
 あまり採らないようにしてほしいと思います。

可憐なカタクリの花です このような群落をつくることがあります