季節の話題(その2) |
● ヒグマはどうやって冬を乗り切るのか ●
長く厳しい北国の冬を乗り切るために、ヒグマは
冬眠するという知恵を身につけました。
大型ほ乳類の中で冬眠をするのはクマの仲間だけです。
餌となる草は枯れはて、
木の実など餌となりそうなものはすべて雪の下となり、
かといってシカやウサギを捕らえることも
容易ではない状況にあっては
他に選択の余地のない道ではあります。
クマの冬眠はヘビやカエルとは違う? |
一般の野生動物の場合、雪が積もるようになると餌を採るのが困難になります。 北海道に生息するヒグマはこの時期を冬眠という方法でうまく切り抜けていること はよく知られています。 ヘビやカエルなどの冬眠は仮死状態、つまりぐっすり眠った状態で春を待つとい うことですから、たとえつつかれてもピクリともしません。冬の厳しさも知らず、ただ のんきに春が来るのを待っていて、ずいぶん楽そうな感じがします。ところがヒグマ の場合は違うんです。 クマの冬眠は、採餌が困難な時期を、できるだけ体力を消耗させないように、体温 を低めに保ち、呼吸数は少なくしてじっとしています。冬の間じゅう、ずっとうつらうつら と眠っているような状態で、意識も感覚もちゃんとあります。けっして熟睡しているわけ ではないので、ちょっとした刺激があれば起きてしまいます。そのため、冬山の森林 施業などで作業員が冬眠穴に近づきすぎて、ヒグマが飛び出してくるという事件が たまにあるわけです。 |
ヒグマの冬眠はスタミナ勝負? |
ヒグマは肉食動物ですから、他の動物を襲って食べているように思われがちですが、 その実態はほとんど草食動物に近い食生活を送っています。知床半島のヒグマの糞 を集めて調査した結果、植物が83%を占めたというデータもあるくらいです。 秋になると、それまでフキやセリ科などの草本類が中心だったヒグマの食事メニュ ーが、ドングリ、クルミ、ヤマブドウ、コクワ、ハイマツなどの木の実が中心に変わりま す。長い冬に備えて、ヒグマの食欲はますます旺盛になり、山の豊かな実りで腹を満 たします。何と言っても冬眠中は飲まず食わずで過ごさなければなりません。穴に入 るときには瞼(まぶた)がふさがるほど肥え太っていたヒグマも、春になって穴から出た ときには、大人のシャツを着た子供のように、皮がだぶついてひどく痩せているという のもよくわかるような気がします。 |
雌グマは冬眠の間どうしてるのか? |
ヒグマの冬眠は繁殖の上でも重要な意味をもちます。日頃、単独生活をしているヒ グマも、5〜7月の一時期だけはつがいをつくって交尾をします。普通の動物では受 精した卵は子宮内に着床して出産まで発育を続けますが、ヒグマの場合、受精卵が 子宮内に浮遊したままで発育を停止してしまいます。受精卵は11月下旬になってか ら着床して発育を開始します。出産は冬眠の真っ最中の1月下旬から2月上旬に行 われます。 受精卵は発育を停止している期間を除くと、実質的な妊娠期間はわずか2ヶ月あ まりに過ぎません。その結果、仔グマは体重400グラム前後しかなく、目も開かず 毛もほとんど生えていない状態で生まれてきます。仔の数は1〜4頭で、2頭の場合 が最も多いのです。冬眠中の母グマは食事もしないで、出産するばかりではなく、そ の後の授乳や育児も行ってしまうんですから驚きです。 |
クマが人里に出没するわけは? |
秋のヒグマは冬眠前の食物を、極端に果実に依存しています。しかし、果実の結実 量は種類によっても違いますが、年による豊凶の差が大きいのです。ヒグマの餌とな るいろいろな種類の木の凶作が重なって、どの種類も不作になることもあります。 そういう困った年には、日頃の行動範囲を超えてまで、代わりとなる食物を求めてさま よい歩くことになります。特にそんなときに、人間の捨てる生ゴミなどが願ってもない餌 となるわけです。 人間の生活域にヒグマが出没しているときに、生ゴミなどが屋外に放置されていると 人為的な食物の味を覚えてしまいます。一度、味を覚えたヒグマは、通常では考えら れないような大胆な行動をとることがあります。そういう状況で生ゴミを出し続けると、 結果的にヒグマを餌付けしたのと同じことになり、家屋に侵入してくるなどのエスカレー トした行動に出ることにもなるのです。また、生ゴミ以外でも、畜産廃棄物や水産廃棄 物などの投棄も問題となります。 ヒグマを人里へと向かわせるもともとの原因が、年による果実の豊凶の差という自 然現象だからしかたがない、とばかりも言えません。豊富に果実を実らせる針広混交 林帯で急速に進む森林開発、また本来、川の上流でヒグマが補食できたサケマスが 今では全くできなくなっているということなどの人為的な側面もあることを忘れてはいけ ません。 |